コングを買ったことがある方、きっと多いと思います。
あの赤いゴム製のおもちゃに、ちゅーるを詰めたり、乾燥フードを隠したり。「これで頭を使ってもらおう」と思って用意して、最初は夢中になって舐めているのを見ていた。5分後には食べ終わって、また退屈そうにしていた。何か別のものを探すように部屋をぐるぐる歩き始める。
(これ、意味あるのかな)と思ったことがある方もいるかもしれない。
「知育おもちゃ」や「フードパズル」は犬のエンリッチメントとして広く勧められています。脳を使う、時間を潰せる、退屈からくる問題行動の軽減になる——そういう説明を聞いて試したことがある人も多いはずです。でも、実際のところどれだけ効くのか、他のやり方と比べてどうなのか、は意外と知られていませんでした。
2022年に発表されたあるパイロット研究が、その問いに一つの具体的な答えを出しています。「どのエンリッチメントが犬の行動を最も変えるか」を複数の活動で同時に比較した研究です。
7種類のエンリッチメントを比較した研究
イギリスのアシスタンスドッグ訓練施設(ガイドドッグ協会の訓練センター)で、Hunt、Whiteside、Prankelのチームがこの研究を行いました。MDPI Animals誌に2022年に発表されています。
対象は、訓練プログラムに参加している10頭の犬(4頭が雄、6頭が雌、生後12〜14ヶ月)。ゴールデン・レトリバーとラブラドール・レトリバーのミックスが9頭、ゴールデン・レトリバーとジャーマン・シェパードのミックスが1頭です。8週間にわたり、7種類のエンリッチメント活動をそれぞれ2回ずつランダムな順番で体験させました。
7種類の活動は以下のとおりです。
- ボンディング(人間との触れ合いセッション)
- バブルマシン(ベーコン香のシャボン玉)
- 犬同士の遊び(コンスペシフィック・プレイ)
- インタラクティブトイ(食べ物入り知育おもちゃ)
- プレイハウス(新しい遊び環境)
- 詰め物おもちゃ(コング類)
- タグプレイ(引っ張りっこ)
各活動の前後に、それぞれ15分間のビデオ撮影を行い、リラックス行動、警戒行動、ストレス行動の頻度を記録しました。活動後にこれらの行動がどう変化したかで、それぞれのエンリッチメントの効果を比較しています。
食べ物系おもちゃの変化が、最も少なかった
結果から先に言います。
エンリッチメント全体として、リラックス行動は有意に増加し(p<0.01)、警戒行動(p<0.01)とストレス行動(p=0.02)は有意に減少しました。 エンリッチメントには確かに効果があった、ということです。
ただ、種類による差がありました。
最も大きな行動変化をもたらしたのは「犬同士の遊び(コンスペシフィック・プレイ)」と「プレイハウス」。逆に最も変化が少なかったのは「インタラクティブトイ」と「詰め物おもちゃ」——つまり食べ物を使った2種類でした。
警戒行動の減少については、犬同士の遊びが他のほとんどの活動(バブルマシンを除く)と比較して有意に優れていました。ストレス行動の減少については、犬同士の遊び・プレイハウス・タグプレイが詰め物おもちゃと比べて有意に低いスコアを示しました。リラックス行動の増加については、犬同士の遊びを含む複数の社会的・環境的活動が、食べ物系の2種類と比べて有意に高い変化を示しています。
注目すべきは「プレイハウス」と「バブルマシン」が2番目・3番目に良い結果を出していた点です。これらはこの研究で初めて提供された完全に新しいEE活動でした。研究者たちはこの「新しさ」が行動変化に貢献した可能性を指摘しています。いつも同じおもちゃを使っていると慣れが生じて効果が薄れる——つまり定期的にエンリッチメントを「ローテーション」することが重要だ、という示唆です。
食べ物を詰めたおもちゃが「最も効果が低い」という結果は、少し意外に感じるかもしれません。
「脳を使う」は犬には通じない言葉かもしれない
この結果について、研究者たちはいくつかの可能性を挙げています。
一つは、この犬たちがケンネル常住ではなく、訓練時間以外はボランティア家庭でも生活していたという点です。常時ケンネルにいる犬では食べ物系のエンリッチメントも効果が大きいという別の研究もあり、食べ物おもちゃの効果は「犬の置かれている環境」によって変わる可能性があります。
もう一つは、食べ物おもちゃは「食べ終わると終了」だということ。おもちゃとの関わり時間が個体差によってバラつき、均一な刺激を与えられなかった可能性もあります。
そして最も印象的なのは、この研究が「社会的接触が犬の行動に最も大きな影響を与える」という先行研究の知見を改めて支持した点です。犬同士の遊びは警戒行動を最も強く減らし、全体的なポジティブな行動変化も最大でした。
脳を使わせることより、「誰かと一緒に動いていること」の方が、犬にとって強いリラックスをもたらしていた。少なくとも、この研究の犬たちにとっては。
この研究はパイロット研究であり、対象は10頭と少数です。一人の評価者による観察で、評価者間の信頼性の確認が含まれていない点も著者たちが認めている限界のひとつです。全頭が同じ品種系統の訓練犬であり、家庭犬全体に直接当てはまるかは慎重に考える必要があります。それでも、7種類の活動を同じ条件で比較した試みとして、示唆に富む結果を出しています。
「一緒に遊ぶ」は時間ではなく、内容の問題かもしれない
おもちゃを用意すること自体が悪いわけではありません。この研究でも、食べ物系おもちゃも含めてすべての活動が、行動スコアには何らかのポジティブな変化をもたらしていました。問題があるとすれば、「食べ物おもちゃ=エンリッチメントの中心」として他の活動を省略してしまうことかもしれない。
研究者たちは「様々なエンリッチメント活動を組み合わせることで、犬はより広い範囲の自然な行動を表現できる」と述べています。一種類に頼らず、組み合わせること。そして定期的にローテーションして「新しさ」を保つこと。これがこの研究から引き出せる、最もシンプルな結論のひとつです。
犬同士の遊びは、飼い犬が毎日確保できるものではないかもしれません。でも、タグプレイ(引っ張りっこ)もこの研究でストレス軽減効果を示した活動のひとつです。おもちゃを与えて終わりにするのではなく、ひとしきり引っ張りっこをして、そのあとにおもちゃを渡す、というような流れが、実は順番として意味を持っているのかもしれません。飼い主と一緒に体を動かす遊びを先にはさむだけで、その後のおもちゃへの関わり方も変わってくる可能性があります。
「うちの子に何かしてあげたい」という気持ちから高価なフードパズルを買う前に、今日の散歩の後に5分の引っ張りっこをしてみることの方が、あの子にとってより大きな変化をもたらすかもしれない。
あの子がコングに10分集中して、それでも何となく落ち着かなかった日を思い出せるとしたら。「一緒に動いていた時間」がその日どれだけあったか、少し思い返してみてもいいかもしれません。今日何をしてあげるかを、少し違う目線で考えてみるきっかけになれば。