子犬が何かを覚えるとき、私たちは「教えなければいけない」と思います。

繰り返し見せる。おやつで誘導する。声をかける。手を貸す。それが当然の流れで、そうやって少しずつ覚えていくものだと。

でも、見ているだけで学ぶことがある、という研究を読んで、少し見方が変わりました。

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ある日、子犬が「見ていた」

パズルボックスを想像してください。蓋を引くと、中からおやつが出てくる。知らなければ、ただの箱です。

生後8週の子犬に、このボックスを渡す。当然、すぐには開けられない。でも、別の犬が開ける様子をその前に見せたとしたら——それは「見ていただけ」で終わるのか。それとも、何か変わるのか。

2018年、ハンガリーのエトヴェシュ・ロラーンド大学の研究チームがScientific Reportsに発表した実験が、その問いに答えました。

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8週齢という、窓が開く時期

研究の対象は生後8週の子犬16頭。4つのグループに分けられ、それぞれ違う条件でボックスを渡されました。

  • デモあり(知らない成犬):見知らぬ成犬がボックスを開けるのを観察してから挑戦
  • デモあり(お母さん):自分のお母さんがボックスを開けるのを観察してから挑戦
  • デモあり(人間):実験者がボックスを開けるのを観察してから挑戦
  • コントロール:デモなしでそのまま挑戦

それぞれの子犬に5分間与え、開けられるかどうかを記録しました。そして1時間後、同じ課題を再度与えて記憶の保持も確認しました。

生後8週という時期は、社会化の窓が開いている時期でもあります。何を、誰から学ぶか——その感受性が最も高いとされる。だから研究チームは、この時期の子犬が「誰から学ぶか」に注目したのです。

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知らない犬の方が、「先生」として機能した

結果は、予想の外側にありました。

知らない成犬のデモンストレーションを見た子犬は、コントロール群と比べて成功率が有意に高かったのです(Exp(β)=5.80、p=0.003)。

5.80という数字は、成功する「オッズ」が約6倍になることを意味します。デモを見ただけで、ボックスの開け方を理解していた。

しかも、この効果は1時間後も持続しました。初回に開けられた子犬は、1時間後の再試行でも高い成功率を示した。見て覚えた情報は、すぐには消えなかったのです。

研究チームは観察行動も記録しています。知らない犬がデモンストレーションをしている間、子犬は全体の時間の57%、その犬を実際に注視していました。目で追い、見ていた。

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お母さんからは学ばなかった理由

ここからが、この研究で最も驚いた部分でした。

お母さんのデモンストレーションを見た子犬は——成功率に有意な差が出なかったのです(p=0.310)。コントロール群と統計的に同じという結果。

(え、なんで?)

観察行動のデータが、ヒントを与えてくれます。お母さんがデモンストレーションをしていた時間のうち、子犬が注視していた割合は36%でした。知らない犬の57%と比べると、明確に低い。

つまり、お母さんのことはあまり「見ていなかった」。

なぜお母さんを注視しないのか。研究チームはいくつかの可能性を挙げています。お母さんとの関係は、すでに安定している。驚きがない。一方、知らない犬は「新しい情報源」として注意を引きやすい。

生物学的に見れば、見知らぬ個体から情報を得ることには意味があります。お母さんと同じ行動を学ぶより、知らない相手が何をしているかを観察することで、より広い範囲の知識を獲得できる。社会的学習の観点からは、それは効率的な戦略かもしれません。

もっとも、「お母さんから学ばない」という結論は単純には言えません。日常的な接触の中で学んでいることは多いはずで、この実験のような特定の課題解決という文脈では、という限定がつきます。

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人間も「先生」になれた

もう一つの発見が、人間のデモンストレーションでした。

人間の実験者がボックスを開ける様子を見た子犬も、コントロール群と比べて成功率が有意に高かったのです(Exp(β)=4.24、p<0.001)。

知らない犬には少し劣るものの、人間からも「観察して学ぶ」ことができた。8週齢の子犬が、人間の行動を見て、それを自分の行動の参考にしていた。

この発見が持つ意味を、少し考えました。

人間が何かをやって見せると、子犬はそれを見ている。ただ一緒にいるだけではなく、人間の行動を観察し、そこから何かを引き出そうとしている。生後8週という早い段階から、そのような能力がある。

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見せることが、教えることになる

この研究を読んでから、子犬との関わり方を少し違う目で見るようになりました。

「教える」という言葉には、能動的に指示する、というニュアンスが含まれます。でも、それだけが教えることではないかもしれない。見せること、一緒にいること、行動を見られること——それも、ある種の学習機会として機能しているとしたら。

子犬が、周囲の犬や人間を見ている。その「見ている」という時間が、何かを積み上げている。

特に社会化の時期に、どんな「見本」と出会うか。それが後の行動や反応に影響を与えているとしたら、子犬のいる環境をどう作るかは、トレーニングの延長として考えることができます。訓練や指示の練習だけでなく、誰と、何を見ながら、どんな時間を過ごすか。

研究チームはこの論文の中で、「社会的学習の能力は生後8週という非常に早い段階から機能している」と述べています。教えられるのを待っているのではなく、観察によってすでに学んでいる。

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今日の散歩で、あの子が何を見ているか

散歩中に他の犬と出会う瞬間があります。じっと見る子犬を引っ張って通り過ぎることもある。でも今は、その「見ている」時間を少し違う目で見るようになりました。

見知らぬ犬が道を歩いている。リードに慣れた犬が、落ち着いて立ち止まっている。そういう場面を見た子犬の頭の中で、何かが記録されているかもしれない。

「教える」は、必ずしも言葉や指示からだけ始まらない。見ること、見せること、見られること——その全部が、学習の時間として積み上がっている。この研究を読んで、そう思うようになりました。

この研究(Pongrácz, Onofer & Miklósi, 2018, Scientific Reports, エトヴェシュ・ロラーンド大学)は生後8週の子犬16頭を対象にした実験です。グループあたりの頭数は少なく(各グループ4頭)、結果の解釈には慎重さが必要です。課題はパズルボックスの開け方という特定の文脈での結果であり、あらゆる学習場面に同じ効果があるとは限りません。「お母さんから学ばない」という結果は、この特定の課題における結果であり、日常的な母子間の学習を否定するものではありません。生後8週という特定の発達段階の子犬を対象にしており、月齢が異なる場合や成犬への適用については別途検討が必要です。