「家族のように」という言葉が、少しだけ引っかかっていました。

言葉が足りない気がするんです。「ように」という比喩で置いておくには、あの子との間で起きていることが、もう少し本物に近い気がして。

ずっとそう思っていたのに、うまく言葉にできないままでいました。

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赤ちゃんの実験を、犬でやった人がいた

人間の赤ちゃんがどうやって親に愛着を持っているか、を調べるための実験があります。

「ストレンジ・シチュエーション法」と呼ばれ、1970年代に発達心理学者のエインズワースが開発したものです。知らない場所に親子を連れてきて、見知らぬ人を登場させ、短時間だけ親が部屋を離れる。その間、子どもがどんな行動をするかを細かく記録します。

どれだけ親を探すか。知らない人にどう反応するか。親が戻ってきたとき、どんなふうに迎えるか。

こうした行動から、子どもと親の「絆の質」を読み解くための手法です。

ミラノ大学のプラト=プレビデ研究チームは2003年に発表した論文で、この実験を犬に応用しました。38組の犬と飼い主のペアが対象でした。

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扉の前で、ずっと待っていた

知らない部屋に連れてきた。見知らぬ人を登場させた。飼い主だけが、部屋を出ていった。

あの子たちはどうしたか。

扉に向かって歩いた。扉を引っかいた。飼い主の椅子に向かったまま、動かなかった。声を出した。

研究チームが記録したのは、「離れると探す行動」「近くにいたがる行動」「飼い主の匂いのついた服に近づく行動」でした。飼い主の服のそばにいた時間は、見知らぬ人の服のそばにいた時間より、有意に長かった。

飼い主が戻ってきたとき、あの子たちは見知らぬ人が戻ってきたときよりも、熱心に、そして長く迎えた

研究チームは記録を分析し、こう述べています。「犬の行動は、ストレンジ・シチュエーション法で見られる人間の赤ちゃんやチンパンジーのそれと、非常に似ていた」。

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知らない人とでも、飼い主がいれば遊べた

もう一つ、面白いことがありました。

知らない人がそこにいても、飼い主が同じ部屋にいるあいだは、あの子たちは知らない人と遊びました。でも飼い主が席を外すと、知らない人への反応が変わった。

これは発達心理学で「安全基地効果」と呼ばれるものです。親がそこにいるから、子どもは見知らぬ世界に踏み出せる。

あの子にとって飼い主は「安全基地」として機能していた、ということです。ここにいていいんだという確信が、あの子の行動を支えていた。

ただし研究チームは「愛着関係であると結論づけるには、実験設計上の制約があった」とも記しています。ストレンジ・シチュエーション法には手順の順序が決まっており、それが判断を難しくする面がある。「非常に似ている」という表現は、慎重な言い方です。それでも2025年にジャーナル・オブ・ベテリナリー・ビヘイビアで発表されたレビュー論文(de Souza et al.)は、「犬は人間で見られる愛着スタイルと一致した行動を示す」と記録しています。20年以上、同じ方向の研究が積み上がってきました。

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「家族のように」じゃなかった

比喩じゃなかった、ということです。

赤ちゃんが親を必要とするのと同じメカニズムが、あの子の中で動いていた。怖い場所に連れてこられたとき、飼い主がいると少し落ち着ける。離れると探す。戻ってきたら、誰よりも喜ぶ。

これは「似ている」のではなく、同じ設計図の上で起きている。

「家族のように接する」ではなく、あの子にとっては本当にそういう存在なのかもしれない。比喩として使っていた言葉が、実は文字通りだったとしたら。

帰宅したとき、ドアを開けた瞬間に来てくれるあの子のことを、少し違う目で見るようになりました。

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参照文献

  1. Prato-Previde, E., Custance, D. M., Spiezio, C., & Sabatini, F. (2003). Is the dog-human relationship an attachment bond? An observational study using Ainsworth's strange situation. Behaviour, 140(3), 319–341.
  2. de Souza, M. C., Bastos, G. Q., & Tokumaru, R. S. (2025). Attachment theory applied to the human-dog relationship. Journal of Veterinary Behavior, 82.