うちの子について話すとき、いつの間にか「あの子」という言葉を使うようになっていました。

「あの子がさ、昨日こんなことして」「あの子、最近ちょっと元気ないんですよね」。犬や猫に「あの子」という呼び方をするのは、何となく自然なことのような気がしています。犬を飼ったことのない人には少し奇妙に聞こえるかもしれないけれど、ペットを持ったことがある人には、その感覚が伝わるはずです。

でもいつから、そうなったんだろう。ふと思いました。人間はいつから犬を「あの子」と呼ぶような距離感で扱うようになったのか。

答えは、私が想像していたよりずっと古かったのです。

12,000年前の墓に、左手を子犬の胸の上に置いた人がいた

イスラエルのアイン・マラハという遺跡は、12,000年前の埋葬地です。発掘された石に覆われた墓の中に、人間の骨格が発見されました。右向きに横たわり、両ひざを曲げた姿勢で——そして左手を、子犬の胸の上に置いたまま、その人は眠っていました。

2011年にフランスの研究者たちが Comptes Rendus Biologies 誌に発表したレビュー論文(Laroulandie et al.を含むフランス国立科学研究センターの研究チームによる)は、犬の家畜化の歴史を考古学・分子生物学の双方からまとめた論文です。その中に、このアイン・マラハの埋葬がひとつの証拠として登場します。

この遺跡の住民は、狩猟採集を行う人々でした。何千年もの間、食料を求めて移動しながら暮らしていた。そういう人たちが、わざわざ石で蓋をした墓を作り、その中に犬(あるいは子犬)と一緒に埋葬されることを選んでいた。

(その人は、あの子のことをどう思っていたんだろう)と、少し想像してしまいました。

アイン・マラハはこれだけではありません。同じ時代(約11,000年前以降)から、世界各地で犬の骨が出土し始めています。アメリカのユタ州にある「デンジャー・ケイブ」では、北米最古の犬の埋葬が約11,000年前と記録されています。西ヨーロッパでも、少なくとも8,500年前の犬の遺骨が出土しています。3万年以上前から始まった共生が、一万年前には世界規模に広がっていたことになります。「特別な場所で一緒に眠ること」が、なぜかあちこちで選ばれていた。

家畜化は、計画された事業ではなかった

犬がどうやって犬になったか、という問いに答えようとした研究者たちは長い間、議論を続けてきました。論文はその経緯を整理しています。

最初に確認された犬の頭骨は、ベルギーのゴワイエ洞窟で発見されたもので、加速質量分析(AMS)による測定で31,700年前と推定されています。その骨は、同時代のオオカミの骨と比べても明らかに異なる形態を持っていました。歯の配列、吻の長さ、頭蓋の形——すでに「犬」としての特徴を持ちはじめていた。少なくとも3万年以上前に、犬とオオカミは別れ始めていたことになります。

では、誰が意図的に「オオカミを犬にしよう」と計画したのか?

論文が提示しているのは、そうではなかったという考え方です。「プロト家畜化(proto-domestication)」と呼ばれるこの理論では、食べ物を求めてオオカミが人間のキャンプの周辺に近づき、人間の存在に少しずつ慣れていく、という過程が繰り返されたと考えます。人間の側もまた、オオカミを完全に排除せず、時に子オオカミを手元に置いて世話をし、共に過ごす時間を積み重ねた。誰かが「家畜を作ろう」と計画したのではなく、近くにいたから、近くにいるようになった。

その過程が、15,000年以上、あるいはそれ以上にわたって続いたと論文は示唆しています。3万年前から1万5千年前にかけての長い時間の中で、オオカミから犬への変化が進んでいった。

この理論が興味深いのは、「どちらかが一方的に選んだ」わけではなく、両者が少しずつ近づいた、という描き方をしている点です。人間はオオカミを完全に追い払わず、オオカミは人間を過度に恐れなかった。その「ちょうどいい距離」が、世代を重ねるごとにわずかずつ縮まっていった。意図のない始まりが、3万年をかけて「一緒に眠る関係」になっていった。

犬とオオカミは今も、ミトコンドリアDNAの98%が一致している

分子生物学の観点から見ると、犬とオオカミは驚くほど近いままです。論文によると、犬とオオカミのミトコンドリアDNAは98%が一致しています。これはオオカミとコヨーテの7.5%の差と比べると、いかに近いかがわかります。同じ祖先から、こんなにも最近(進化の時間軸では)分かれたのか、という驚きがあります。遺伝子レベルではほぼ同じ存在が、生き方をこれほど変えた。

それだけ近い存在が、今ではオオカミとは全く違う道を歩んでいます。 論文の末尾にある数字が、印象に残りました。世界中でオオカミの個体数は減少し続けているのに対し、犬の個体数は増加し続けている。アメリカだけで7,500万頭の純血種が登録されており、北京でも犬の数が急速に増えている。家畜化は、犬にとっても「成功した戦略」だった、と論文は言います。

近くにいた。近くにいるようになった。結果として、どちらの種にとっても生き残りやすい関係ができた。

犬は人間のシグナルを、チンパンジーよりも上手に読む

もう一つ、論文が記しているのは、犬が人間のシグナルを読む能力についてです。

成犬だけでなく、人間との接触をほとんど経験していない子犬でも、犬はオオカミや類人猿(チンパンジー)よりも正確に人間のサインを読み取れることが複数の実験で確認されています。これは訓練によって身についた能力ではなく、家畜化の過程で選択された遺伝的な性質だと考えられています。

(あの子がこちらを見るとき、ただ見ているだけじゃないのかもしれない)と思うことがあります。

人間と一緒に暮らす中で、人間を「読む」能力が選ばれてきた。それはオオカミにはない、犬だけが持つ性質です。3万年の共生が、その性質を作り上げました。

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犬の家畜化の歴史を読んでいるうちに、アイン・マラハの墓のことが頭から離れなくなりました。12,000年前の狩猟採集民が、左手を子犬の胸に置いた姿で眠っている。その人が何を考えていたか、当然ながら知る手段はありません。でもその姿勢には、言葉よりも雄弁な何かがあるように思います。

「あの子」という感覚が、12,000年前からあったとしたら。うちの子との今の関係は、気がつけば3万年以上の時間の積み重ねの上にある、ということになります。

論文の結論に、こんな記述がありました。英語圏の人々は犬について話すとき「it」ではなく「he」「she」「him」「her」という代名詞を自然に使う、という観察です。日本語で言えば「あの子」に当たるような言い方です。そして調査では、94%の飼い主が「自分のペットは人間のような個性を持つ」と考えており、93%が命をかけてでもペットを守ると答えていました。これは最近の感情ではなく、「ずっとそうだった」という話なのかもしれない。3万年前から近くにいて、12,000年前に一緒に眠った人がいて、今日私たちがこうしている。

今日もあの子が隣で眠っているなら——それは、かなり長い間続いてきた光景の、今日の続きです。