なんで犬は人間と一緒にいるんだろう、とふと思ったことがあります。
飛びついてくるあの子を見ながら、(この子は一体いつからこうなったんだろう)と。わかるはずがないと思っていたのですが、調べた人がいたんです。
DNAを調べたら、出発点がわかった
2015年、中国科学院の研究チームが論文を発表しました(Wang et al., 2015、Cell Research)。
12頭のオオカミ、アジアとアフリカの在来犬27頭、世界各地の多様な犬種19頭——計58頭のゲノム全体を解読し、現在の犬の先祖がどこで生まれたかを探りました。
結果は、東南アジアの犬がずば抜けて高い遺伝的多様性を持っていた。オオカミに最も近い基盤的な系統も、東南アジアの犬の中にありました。
研究チームが導き出したのは、犬の家畜化は約3万3千年前、東南アジアで始まったという結論です。そして約1万5千年前に、その子孫の一部が移動を始めた。中東へ、アフリカへ、ヨーロッパへ。ヨーロッパに到達したのは約1万年前のことでした。
1万5千年前。農業が始まるよりも前の話です。
「ゴミを漁りにきた」という説が、揺らいだ
どうして犬が人間のそばにいるようになったか、には2つの説があります。
ひとつは「コメンサル・スカベンジャー仮説」。人間の集落に残った食べかすや残骸を求めて、オオカミが自らそこへ集まりはじめた。人間の近くにいることで生き延びやすくなったオオカミが、世代を重ねるうちに恐怖心を失い、やがて人間と共存するようになったというものです。
もうひとつは「ペット飼育・異種間養子縁組仮説」。旧石器時代の人間が、オオカミの子どもを捕まえて育てた。人に慣れた子オオカミを世話し、一緒に暮らした。その習慣的な行為が、長い時間をかけて犬という動物を生み出したというものです。
2021年にフロンティアーズ・イン・ベテリナリー・サイエンス誌に掲載されたペンシルベニア州立大学のサーペル教授によるレビュー論文(Serpell, 2021)は、これら2つの説を詳しく検討しています。
サーペル教授が出した結論は、「コメンサル・スカベンジャー仮説は成立しない」というものでした。旧石器時代の狩猟採集民がどのような生活をしていたかを調べると、集落に残飯が蓄積されるような状況は考えにくい。群れで動き、焚き火を囲んで食べるその生活では、残されるものが少なかった。
代わりに説得力があるのは後者の説だとサーペル教授は言います。人類には太古から、動物の子どもを拾い育てる習性がある。オオカミの子どもが人間の手で育てられ、人間を仲間として認識した。そこから、2つの種の間に協力関係が生まれていった。
選んだのは、どちらの側だったか
これは「犬が人間のそばを選んだ」か「人間が犬を選んだ」かという話ではないかもしれません。
人間がオオカミの子どもを拾い、育てた。育てられたオオカミは人間に慣れた。その子どもたちは人間と生きることを前提に生きてきた。世代を重ねながら、それが今の犬になった。
1万5千年かけて移動し、今この部屋にいる。その旅の記憶が、あの子の体の中に書き込まれています。
どうして犬は人間のそばにいるのか、という問いの答えは、「最初から一緒に生きてきたから」ということかもしれない。
それが比喩でなく、文字通りの意味だとしたら——今日、あの子の目を見るとき、少し違う感じがするかもしれません。
参照文献
- Wang, G., Zhai, W., Yang, H., Wang, L., Li, Z., et al. (2015). Out of southern East Asia: the natural history of domestic dogs across the world. Cell Research, 25(1), 21–28.
- Serpell, J. A. (2021). Commensalism or Cross-Species Adoption? A Critical Review of Theories of Wolf Domestication. Frontiers in Veterinary Science, 8, 662370.