子犬が何かを覚えていく様子を、じっと見ていたことがあります。

兄弟犬が扉の開け方を覚えたとき。それを見ていた別の子が、少しあとに同じことをやってみた。「見て覚えた」ということが本当にあるのだろうか、と思いながら見ていました。

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「見て学ぶ」が、8週齢でもう始まっている

犬が社会的な学習をすることは、成犬では研究が蓄積されています。でも「いつから」という問いに答えた研究はほとんどありませんでした。

イタリアとハンガリーの研究チームが2018年にScientific Reportsに発表した研究は、その問いに直接向き合いました。対象は生後8週齢の子犬41頭。7つの異なる犬種(ボーダーコリー、シェルランド・シープドッグ、ラブラドール・ミックスなど)の7腹から集められた子犬たちです。

実験に使ったのはパズルボックス——蓋を持ち上げるか横にスライドさせると中の食べ物が取れる、シンプルな装置でした。子犬にはそれを解く訓練をしていません。どうすれば開くかを、自分なりに見つけるしかない。

研究チームが問いかけたのは「誰かがやっているのを見たとき、子犬は初めてのパズルを自力で解けるようになるか」でした。

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見知らぬ犬から学んだが、お母さんからは学べなかった

研究の中で、最初に驚いた結果はここでした。

子犬たちは「見知らぬ成犬の実演を見るグループ」「お母さんの実演を見るグループ」「何も見せないコントロールグループ」に分けられました。結果を分析したとき、研究チームが予想していたのとは違う数字が出ました。

見知らぬ犬の実演を見た子犬は、コントロールグループの5.8倍の確率でパズルを解くことができた。(Exp(β) = 5.80, p = 0.003)

そしてお母さんの実演を見たグループは——コントロールグループと有意な差がなかった。

(え、お母さんじゃダメだったの?)

お母さんからは教わるものだという感覚は、多くの動物でそうですし、人間でもそう思いがちです。実際、子猫は見知らぬ成猫よりお母さん猫から学びやすいとされています。でも子犬は逆でした。

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注目した時間が、答えだった

なぜ見知らぬ犬から学べて、お母さんからは学べなかったのか。研究チームはその理由を「注目した時間」に探しました。

見知らぬ犬の実演を見ていた子犬は、デモンストレーションの時間の**57%を実際に見る時間として使っていました。一方、お母さんの実演を見ていた子犬が実際に見ていた割合は36.3%**でした。この差は統計的に有意でした(t = 3.14, p = 0.004)。

同じ実演を同じ時間見せても、子犬がどちらに注目するかが違っていた。

研究チームはこう解釈しています。「見知らぬ犬は子犬にとって新しい刺激であり、注意を引きつける効果があった可能性がある。また、お母さんからは食べ物を分けてもらったり取ってきたりできる場合があるが、見知らぬ成犬からは学んで自分で取るしかない。その違いが観察学習の効果を生んだかもしれない」。

熟知した相手からはつい「もらう」ことを期待し、知らない相手からは「自分で覚えよう」と集中する——そういう使い分けが、すでに8週齢でできているということです。

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人間の実演でも、4倍の効果があった

同じ研究に、もう一つの条件がありました。子犬に人間がパズルを解くところを見せるというものです。

これも結果は明確で、人間のデモンストレーションを見た子犬はコントロールグループの4.2倍の確率でパズルを解くことができました(Exp(β) = 4.24, p < 0.001)。

犬が人間から社会的な学習をすることは成犬では確認されていましたが、8週齢でもそれができることが示されたのは初めてでした。

研究チームは「犬が人間と犬の両方を学習のモデルとして使える柔軟性は、早期に発達する」と述べています。人間の複雑で変化の多い社会環境に適応するために、犬は知らない相手からも素早く情報を取り込める能力を進化させてきた——その能力がすでに生後8週で動いていたということです。

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記憶は1時間後も残っていた

実験には「1時間後に再テスト」という試行が含まれていました。

観察学習で解き方を覚えた子犬は、1時間後にもコントロールグループより高い確率でパズルを解くことができていました。「その場の勢い」だけでなく、観察から得た情報が記憶に残っていた可能性を示す結果です。

もちろん、1時間後の試行では「最初の2試行で実際に練習した」という経験も混ざっているため、「観察だけの記憶」と分離することはこの研究では難しいと研究チームも断っています。ただ、学んだことが短時間では消えずに残るという傾向は確認されました。

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子犬が「上手な犬」を見ている、あの瞬間

ドッグカフェやドッグランで、子犬が成犬の動きをじっと追うことがあります。成犬が障害物を軽々と越えるのを見て、子犬が同じことを試みる場面も。

あれが「ただ見ている」のでなく、「何かを取り込もうとしている」かもしれない。しかもお母さんより、見知らぬ相手から学ぶ力が大きい可能性がある——そう思うと、あの眼差しが少し違って見えてきます。

トレーニングの文脈でも、このことは興味深い。すでに訓練されたベテランの犬が同じ空間にいることが、子犬の学習に何かをもたらす可能性があります。研究チームも「多くの犬が一緒に学ぶクラスでの活用」を今後の研究として示唆しています。

子犬がどこに視線を向けているか。何を見て、何を覚えようとしているか。それを少し意識するだけで、関わり方が変わるかもしれません。

この研究(Fugazza et al., 2018, Scientific Reports)は8週齢の子犬41頭を対象にした実験で、サンプル数は比較的少なく、特定の国(イタリア・ハンガリー)のブリーダー環境で行われた実験です。「見知らぬ犬から学んだが母犬からは学べなかった」という結果は条件特異的である可能性があり、別のタスクや文脈では異なる結果が出ることも排除できないと研究チームも述べています。また子犬全員が2つの条件(犬条件と人間条件)の両方を経験しているため、学習の移転効果が生じている可能性があります。パズルボックスという特定の課題での結果であり、すべての学習文脈に一般化するのは慎重さが必要です。