「うちの子は家族です」と言うとき、その言葉の重さは人によって全然違う。
あなたのそばにいる友人が同じ言葉を使っていても、日々の接し方を見ていると、何かが違う。犬のために仕事を調整する人もいれば、犬は大事だけれど「動物だから」と割り切っている人もいる。どちらも「家族」と呼んでいる。
その「違い」に名前をつけようとした研究があります。
790人に、あの子はどんな存在かを聞いた
ハンガリーの研究チームが2024年にScientific Reports誌で発表した論文は、790人の犬の飼い主を対象に「あなたにとって犬はどんな存在か」を詳しく調べたものです。
研究が使ったのは、犬に対して想定される複数の「役割」——番犬や助けを提供してくれる「動物的な役割」から、友達・同僚・家族・子ども・誰よりも大切な存在という「人間的な役割」まで——それぞれをどの程度当てはまると感じるかを7段階で評価する方法です。
結果として浮かび上がってきたのは、「飼い主の84.8%が犬を家族だと感じている」という数字でした。
68.4%が「友達」、38%が「飼いならされた動物」とも答えています。57%が「番犬・助けを提供してくれる存在」という役割には当てはまらないと答えました。
ほとんどの人が「家族」「友達」と感じている。それは事実として確認された。でも研究チームがそこから先に進んだのは、その「感じ方の組み合わせ」が人によって異なるという問いがあったからです。
「家族だと思っている人たちをまとめて見るのではなく、その内側にある違いを探す」——クラスター分析という手法で、飼い主は3つのタイプに分かれました。
同じ「家族」でも、3種類いた
第1タイプ:犬親(ドッグペアレント)
790人のうち391人(49.5%)がこのグループに属しました。最も多いタイプです。
このグループの特徴は、「子ども」「誰よりも大切な存在」という評価が特に高いこと。犬を人間の子どもとほぼ同等に扱う傾向があり、室内飼いが多く、犬と過ごす時間も長い。
ただし、研究の中で注目されたのは、このタイプが「しつけの一貫性が低くなりやすい」という点でした。愛情が深いからこそ、「今日だけは特別」「かわいそうだから」という判断が入りやすく、決めたルールを毎回同じように守ることが難しくなる傾向が見られました。
第2タイプ:コンパニオン飼い主
153人(19.4%)が属するこのグループは、年齢層が高い飼い主が多い傾向がありました。
犬を大切にしているが、「子ども」や「誰よりも大切」という評価はやや低く、感情的な距離感が適度に保たれている。そして、しつけの一貫性は3タイプの中で最も高かったのです。
「感情的な距離」というと冷たく聞こえるかもしれません。でも研究チームが分析したのは、その距離がむしろ「ルールを守る」ことを助けているという構図でした。
第3タイプ:デュアルステータス飼い主
246人(31.1%)が属するこのグループは、犬を「同僚」「家族」「番犬・助ける存在」といった複数の役割で同時に捉えているのが特徴です。
犬に社会的・実用的な役割も認めながら、感情的な絆も大切にしている。このタイプは、陽性強化を使ったトレーニング(ほめる・おやつを使う)への傾向が最も高く、飼い犬が「服従している」「言うことをよく聞く」という評価も他のグループより高かったとされています。
役割の見方が、接し方を変えていた
この研究が示したのは、「家族と思っているかどうか」よりも「どんな家族と思っているか」が、日々の行動に反映されているということでした。
特に目を引いたのはしつけの一貫性です。研究では、犬を「子ども」や「誰よりも大切」という文脈でとらえる傾向が強いほど、しつけの一貫性が低下しやすいことが示されました。
これは「愛情が深い人のしつけが乱れやすい」という否定の話ではありません。子どもに対するように、犬に対しても「例外」を作りやすいという人間的な傾向が出やすい、ということです。
一方、デュアルステータス飼い主(第3タイプ)で陽性強化の使用傾向が高かったことは、「犬にもできることがある」「役割を担える存在だ」という見方が、より積極的な関わり方を引き出している可能性を示しています。
犬を「何もできない子ども」と見るか、「一緒にやれることがある存在」と見るか——その微妙な違いが、日々の声のかけ方、ルールの守り方、訓練への取り組み方に影響していた。
「どう見ているか」は、声に出てくる
研究の中で、飼い犬の問題行動として最も多く挙がったのは「飛びつき」(33.2%)でした。
この数字は、関係性の質というよりも「どんな関係性かによって、何を問題と感じるか・どう対処するか」が変わることを示唆しています。「飛びついてきてもかわいい」と思える飼い主と、「飛びつかないようにしたい」と思う飼い主では、同じ行動への反応がまったく違う。
トレーニング方法についても、回答した飼い主の92.8%がほめる方法を、90.3%がなでる方法を、79.6%が食べ物を使う方法をそれぞれ「使う」と答えていました。電気ショックカラーを「一度も使ったことがない」という回答は93.5%に上ります。少なくともこの調査の参加者の間では、陽性強化を中心にした接し方が広く定着していることが見えます。
トレーニング道具の選択にも、見方が出ていた
研究では、飼い主がどんなトレーニング道具・方法を使うかについても詳しく調べていました。
回答した飼い主の92.8%がほめる方法を、90.3%がなでる方法を、79.6%が食べ物を使う方法をそれぞれ「使う」と答えていました。一方、電気ショックカラーを「一度も使ったことがない」という回答は93.5%に上ります。少なくともこの調査の参加者の間では、陽性強化を中心にした接し方が広く定着していることが見えます。
第3タイプ(デュアルステータス飼い主)でこの傾向がより強かったことには、興味深い解釈ができます。犬を「役割を担える存在」として見ることで、「教えれば理解できる」という前提が生まれやすくなる。その前提があるとき、罰よりもほめることで動機付けることが自然な選択になりやすい、というものです。
飼い犬の問題行動として最も多く挙がったのは「飛びつき」(33.2%)でした。この行動への評価もまた、「どう見ているか」によって変わります。「かわいい」と受け止める飼い主と、「直したい」と感じる飼い主では、同じ行動への反応がまったく違う。どちらが正解というわけではありませんが、自分がどちら側にいるかを知っておくことは、しつけの方針を決めるときに役立ちます。
「何と呼ぶか」より「どう見ているか」
この研究が残してくれたのは、「家族かどうか」というラベルの話ではないと思っています。
「家族」という言葉を使っていても、その言葉の中身——犬をどんな役割を持つ存在として見ているか——が、接し方に静かに反映されているということ。
しつけが思うようにいかないとき、「なぜ続かないのだろう」と考える前に、「自分はあの子をどんな存在として見ているのだろう」と問い直すことが、ひとつの入り口になるかもしれません。
子どもとして見れば、例外を作りたくなる。同僚として見れば、お互いの役割を決めやすくなる。友達として見れば、相手のペースを尊重したくなる。
どれが正解というわけではない。ただ、「自分はあの子をどう見ているか」を知っていると、自分の接し方の傾向が少し見えやすくなる。
あなたは今、あの子のことをどんな言葉で呼んでいますか。その言葉の中に、二人の関係の形が入っているかもしれません。