トレーニング中に犬を見ていて、(今、何を考えているんだろう)と思ったことがある方は多いと思います。

おやつを手に持って、「おすわり」と声をかける。反応するときと、しないときがある。同じコマンド、同じおやつ、同じ自分。でも結果が違う。何が違うのか、長い間わかりませんでした。タイミングなのか、気分の問題なのか。コマンドを何度繰り返せばいいのか。

麻布大学の研究チームが2014年に発表した論文を読んで、一つの視点が加わりました。「うちの子が学べるかどうかを、体が先に教えていた」という視点です。

46頭の犬の体を、3日間記録したこと

長谷川雅美・大谷伸代・太田光明の3名による研究は、麻布大学の施設で飼育されている46頭の犬(17頭が雄、26頭が雌、33犬種)を対象にしたものです。年齢は1歳から6.5歳。2014年にMDPIのAnimals誌に掲載されました。

実験の仕組みはシンプルです。ハンドラーが手の動きを合図として「おすわり」を食べ物ご褒美で教えるオペラント条件付けを、1日3回のセッション(各5分)×3日間、計9回行いました。

そして9回のセッションを通じて、3名の観察者がそれぞれ独立して犬の体のサインを記録しました。記録した部位は目(Ey)・口(M)・耳(Ea)・尻尾の位置(T)・尻尾の振り方(TW)の5カテゴリです。1分1秒の映像をスローモーションで見直しながら、それぞれの体勢が何秒続いたかを細かく分類していきました。3名のデータの一致率はクロンバックのα係数で0.83。観察者間の信頼性が十分に確認された評価でした。

全セッションが終わると、最後に「テスト」が行われました。ハンドラーが同じ手の動きを20回繰り返し、犬が「おすわり」で応じた回数を記録する。その成功回数の中央値は9回で、9回以上を「高成績グループ」、それ未満を「低成績グループ」として分けました。また、訓練の繰り返し数と成功数の間には有意な正の相関がありました(rs=0.7, p<0.05)。年齢と学習成績の間には統計的な相関は見られませんでした(rs=-0.31, p=0.35)。

体が先に、答えを知っていた

統計解析(ステップワイズ重回帰分析)を行ったところ、高成績グループと有意に関連する体の特徴が7つ特定されました。

目を大きく開いている(β=0.14, p<0.05)。口を閉じている(β=0.48, p<0.001)。耳が前に向いている(β=0.19, p<0.01)。尻尾がほぼ垂直に立っている(β=0.18, p<0.01)。尻尾が動いていない(β=0.34, p<0.001)。尻尾を短く速く振っている(β=0.33, p<0.001)。逆に、尻尾が下に垂れている状態(β=-0.16, p<0.05)は低成績と関連していました。

βの値(標準偏回帰係数)が大きいほど、学習成績との関係が強いことを意味します。この中で最も大きかったのは「口を閉じている」(β=0.48)で、次いで「尻尾が動いていない」(β=0.34)と「尻尾を短く速く振っている」(β=0.33)でした。

なぜこれらが高成績と結びついたのか。論文の著者たちはこう考えています。

前に向いた耳と大きく開いた目は、「heightened attention(高まった注意)」「motivation(動機)」「confidence(自信)」の状態に対応する体のサインとして、先行研究でも繰り返し記録されてきたものです。この2つが揃っているとき、犬はハンドラーに意識を向けているのではないか、という解釈です。

「口を閉じている」については少し複雑な背景があります。パンティング(口を開けて息をすること)は体温調節のための行動でもあり、見知らぬ人間によるストレスからも起きます。研究者たちは「口が閉じているかどうかだけで集中度を判断するのは難しい面もある」と注意しています。ただそれでも、今回の統計分析では最も強い予測因子として現れました。

尻尾については少し補足が必要です。「動いていない」または「短く速く振っている」が高成績と関連していたとあります。「尻尾を大きくゆったり振る」でも、「激しく振り回す」でもありませんでした。落ち着いた集中状態の尻尾のあり方と、著者たちは解釈しています。ただし、尻尾の評価は犬種によって形状が異なるため、すべての犬種に同じ基準を当てはめることはできないとも述べています。パグのように尻尾の動きが評価できない犬種は、今回の分析からも除外されています。

・・・

これは一つの研究で、対象は麻布大学の施設で暮らす46頭の犬でした。一般のご家庭の犬、特に飼い主と長く暮らしている犬では、体のサインが少し異なる可能性があります。研究者自身も「ペット犬でも同じ評価が当てはまるかを確認する必要がある」と述べています。ただ、この研究で見つかった基本的なパターン(耳が前・目が開いている・尻尾が安定している)は、犬がよく集中しているときに見せる姿として、ドッグスクールの現場でも同様の傾向が確認されたと報告されています。

コマンドより先に、体を見るようになった

この研究を読んでから、声をかける前にあの子の体を一瞬見るようになりました。

耳はどこを向いているか。目は大きいか、細いか。尻尾はどのあたりにあるか。

口を開けてパンティングしているときは、何かで興奮しているか、少し疲れているかもしれない。見知らぬ場所や人に緊張しているかもしれない。そういうタイミングで「おすわり」と声をかけても、こちらの声がうまく届いていないことがある。

反対に、耳をこちらに向けて、目を大きく開いて、少し立ち止まっている瞬間がある。そこに声をかけると、すっと動くことが多い。「タイミングが合う」と感じていたあの瞬間は、あの子が「今、聞けます」という状態を作っていた瞬間だったのかもしれない——そう思うと、「タイミング」の意味が少し変わって見えます。

あの子の体が伝えていること

日常で観察できるサインを3つ整理します。

耳が前に向いている:犬があなたの方向に意識を向けているサインです。呼びかけるのに良い瞬間です。逆に耳が横や後ろに流れているときは、緊張や服従の状態を示している可能性があります。

目が大きく開いている:覚醒水準が上がっているサインです。パチッと開いた目は、注意が向いている状態を示します。目が半開き・うっとりしているときや、白目が多く見えているときは、状態が違います。

尻尾の動きが落ち着いている:激しく揺れている状態よりも、ゆっくり安定している、または少し引き締まった尻尾のとき。感情が大きく揺れているときより、集中状態に近い可能性があります。尻尾が下に垂れているときは、不安や緊張のサインである可能性があるため、その状態が落ち着いてから声をかける方が良い場面もあります。

あの子の体のサインは、「今、私はこういう状態です」という報告です。私たちがそれを受け取れるかどうかで、同じコマンド・同じおやつでも届き方が変わってくる。コマンドを覚えることより先に、「あの子が今どこにいるか」を見ること。その一点が、トレーニングの質を静かに変えていくかもしれないと思っています。

耳が前を向いた瞬間、目が大きく開いた瞬間——あの子が「聞けます」と言っているときに、声をかけてみてください。