最後にあの子の口の中を確認したのは、いつのことでしょう。

口臭が気になった日。歯磨きをしようとして、嫌がられた日。それ以来、なんとなく気にかけながらも、「チューをあげているから大丈夫」「年に一度の検診があるから」と思って過ごしてきた——そういうことが、私にもありました。

けれど、ある研究のデータを見て、少し立ち止まることになりました。

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ケアをしていた犬たちの話

2018年、パデュー大学(インディアナ州)の研究チームが、犬の歯周病に関する調査結果をPLoS ONEに発表しました。

対象は、インディアナ州とイリノイ州の24施設で飼育されている445頭の犬です。42犬種、平均年齢3.15歳(1〜11.9歳)。

この研究で特に注目したいのは、対象施設のケア水準です。すべての施設が何らかの予防ケアを実施していました。クロルヘキシジンを飲料水に加えること、チューイングアイテムの提供、家庭での歯石除去(NPDS)、またはその複数の組み合わせ——すべての施設で年に少なくとも1回の獣医師による歯科検診も行われていました。

「ケアをしている犬たちの話」として、次の数字を見てほしいと思います。

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86.3%という数字

研究チームが調べた結果、445頭のうち86.3%の犬に、歯肉炎または歯周病のいずれかが確認されました。(95%信頼区間:82.9〜89.3%)

10頭いれば、8〜9頭の計算です。

この数字を見て「対象が施設の犬だから」と思う方もいるかもしれません。でも研究チームは、この有病率が先行研究で報告されてきた一般の飼い犬の数字と同水準であることを明記しています。「施設特有の問題」ではなく、犬全般に共通する傾向——そういう認識のもとでこの研究は書かれていました。

86.3%のうち、45%は歯肉炎(グレードI)。残りが歯周炎(グレードII〜IV)でした。歯肉炎の段階では適切なケアで改善できる可能性がありますが、それが進行した状態になると話は変わります。

この数字を前にして、少し呆然とした気がしました。ケアをしていても、これだけの割合で何かが起きている。

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年齢が1歳増えるごとに

リスク因子の中で、「年齢」は明確な数値として出ていました。1歳年齢が増えるごとに、歯周病のリスクがオッズ比1.4倍で高まります(p<0.0001)。

これは避けられない話です。年齢を止めることはできない。シニアになるにつれて、口の中に何かが起きている可能性は高まっていく——そのことを、この数字は静かに示しています。

だとすれば、コントロールできる要因に目を向けるしかない。そう思って読み進めると、この研究のもう一つの重要な発見が出てきました。

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「ケアをしているのに」の正体

研究の中で、ある予防ケアが「リスクを下げる」どころか、「リスクを上げる」という結果になっていました。

家庭での歯石除去(NPDS)を行っていた施設の犬は、歯周病リスクがオッズ比2.82倍に高かったのです。(p=0.006)

NPDSとは、獣医師ではない人が歯石除去器具を使って歯の表面の歯石を削る処置のことです。一見「きれいにしている」ように見えますが、この処置は歯茎の下(歯肉縁下)のプラークや細菌には届きません。しかも痛みや傷のリスクがある。アメリカ獣医歯科学会(AVDC)は公式にこの処置に反対の立場をとっています。

研究チームは「NPDSを受けていた犬が高いリスクを示したことは、AVDCの立場を支持する」と述べています。

ケアをしているつもりだったのに、むしろリスクを高めていたかもしれない——この結論は、気持ちよくはない。でも知っておくべきことだと思いました。

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保護効果が確認されたもの

一方、統計的に「リスクを下げる効果」が出た要因もありました。

チューイングアイテムの提供です。牛のひづめなどのチューアイテムを提供していた施設の犬は、歯周病リスクがオッズ比0.43倍でした(p=0.005)。

ただし研究チームは補足しています。チューイングアイテムの効果は主に「歯の表側の歯石を物理的に削る」ことによるものであり、この研究で使われた具体的なアイテム(主に牛のひづめ)が獣医口腔ヘルスカウンシル(VOHC)の認定を受けているものではないことも記されていました。「何でもいいからかみかみを与えれば解決」というより、どのアイテムを選ぶかは今後の研究課題でもあると。

クロルヘキシジンの飲料水への添加は、有意な効果が確認されませんでした(p=0.238)。使用濃度や頻度が施設によってまちまちだったことが影響している可能性があります。

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口の中は、体の入り口でもある

歯周病は口だけの問題ではないかもしれない——研究チームはそのことにも触れています。

先行研究として、歯肉炎の重症度と全身性炎症マーカー(CRPなど)との正の相関、腎臓や肝臓に関わる指標との関連が紹介されていました。歯石除去後に炎症マーカーが下がったという報告も、参照されています。因果関係の確立には今後の研究が必要とされていますが、「口だけに止まらない可能性がある」というのが、現時点での読み取り方です。

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今日のあの子の口の話

10頭のうち8〜9頭。この数字が、今日のあの子に当てはまるかどうか、私には直接はわかりません。

でも「ケアをしているから大丈夫」という安心が、いつも正しいとは限らない。そのことは、この研究が静かに示していることです。

あの子の口の中で、今日も何かが静かに進んでいるかもしれない。そう思って、次の検診のタイミングを確認してみようと、私は思いました。歯の話を、後回しにし続けてきた時間を、少しだけ取り戻せるかもしれないから。

この研究(Stella et al., 2018, PLoS ONE, パデュー大学)は24の商業的繁殖施設(インディアナ州・イリノイ州)で飼育される445頭を対象にした横断研究です。一般の家庭での飼育環境とは異なるため、結果の直接適用には注意が必要です。視覚的スコアリングの評価者間一致率は86.2%(weighted kappa 0.47)で中程度の一致とされており、測定の誤差が含まれます。チューイングアイテムの保護効果は、使用されたアイテムの種類による違いを特定できていません。またNPDSのリスク増加については、その処置を行う施設の他の特性が交絡している可能性も排除できません。