「うちの子の歯は大丈夫だと思います」と答えたことがある方は多いと思います。
定期健診で聞かれたとき、知人に話すとき、あるいはフードを選ぶとき。「まあ、ご飯も食べてるし、元気そうだから」——そういう感覚で答えていた、という方も多いのではないか。
その「大丈夫」の感覚と、実際に犬の口の中で起きていることの間に、少し大きな開きがある可能性を示した調査があります。
「良好」と答えた半数、「80〜89%」という数字
スウェーデンの研究チームが2020年にFrontiers in Veterinary Science誌に発表したこの調査は、スウェーデン国内の犬の飼い主209,263人にアンケートを送り、59,978件の有効回答を得たものです。回答率は32%。飼い主の年齢・性別・居住地・学歴と、犬の犬種・サイズ・年齢を合わせて分析しており、犬の歯の健康に対する飼い主の認識を系統的に調べた大規模な研究です。
犬の歯の状態についてどう評価するかを聞いたところ、飼い主全体の半数(50%)が「非常に良い」と回答しました。78%が愛犬の全身の健康状態を「非常に良い」と評価しているのと比べると、歯については少し慎重な見方をしている飼い主が多いようです。
ただし、3歳以上の犬を持つ飼い主に限ると、「非常に良い」と答えた割合は38%にとどまりました。年をとるにつれ、何かに気づき始めているのかもしれない——そう感じさせる変化です。
ここで一つの数字を並べてみます。犬の歯科疾患の有病率について、複数の先行研究が一貫して示してきたのは、3歳以上の犬の80〜89%に歯周病が見られるという事実です。飼い主の評価(38%が「非常に良い」)と、実際の疾患の広がりの間には、相当の差があることになります。
この論文の著者たちは、その差についていくつかの可能性を挙げています。犬は歯の不快感をはっきりと示さないことが多い。飼い主が口の中を十分に確認できていない場合もある。「まあまあ良い」という飼い主の評価が、獣医師の視点では「歯周病のサインがある」と判断される場合もある。そして、完全な診断には麻酔下での診察が必要なため、起きている犬の口を見るだけでは全貌はわからない。
犬が食欲を維持し、普通に行動しているように見えても、口の中で炎症が進んでいることはある。「ごはんを食べているから大丈夫」という判断の難しさが、ここにあります。人間は歯が痛ければ顔をしかめ、食事を変え、歯科に行きます。犬は同じレベルの痛みがあっても、行動にはあまり出さないことが多い。それが「問題が見えにくい」状況を作り出しています。
においには気づいていた
このアンケートには、口臭や歯石の有無を尋ねる設問も含まれていました。
犬に口臭がある(「たまに」から「いつも」)と答えた飼い主は、47.7%でした。「まったくない」と答えた飼い主は51.7%で、約半数がなんらかの口臭を認識していたことになります。
歯石については、37.3%の飼い主が「ある程度存在する」と回答しています(「少し」31.3%、「中程度」4.9%、「多い」1.1%の合計)。10.8%は判断できないと答えました。
口臭が気になっていて、歯石があることも知りながら、それでも「歯は大丈夫」と感じていた。この矛盾はなぜ起きるのか。論文の著者たちが指摘しているのは、犬の口臭は日常の一部として受け止められやすいこと、そして「臭いはあっても、食べられているから大丈夫」という認識が生まれやすいことです。犬が痛みや不快感を行動に出さないことも、問題が見えにくくなる一因です。
歯磨きをしている飼い主のうち34.7%は、磨いているとき「たまに出血する」と答えています。出血がある場合、歯ぐきに炎症(歯肉炎)がある可能性があります。この論文が参照した別の分析では、歯磨きの頻度が少ない飼い主ほど出血リスクが高い傾向が確認されています。磨けていないから出血していて、出血するから磨きたくない——そういう循環が起きているケースもあるかもしれません。
歯を見せてくれない
「犬の歯を全部確認することができますか?」という設問では、4人に1人(24.5%)の飼い主が「やや難しい」または「非常に難しい」と回答しました。
最も多く挙げられた理由は「犬が嫌がる・協力しない」(79.1%)で、次いで「技術的・実際的な難しさ」(31.6%)、「やり方がわからない」(9.0%)と続きます。
この傾向は小型犬の飼い主に特に強く現れました。チワワ、ヨークシャーテリア、中国のクレステッドドッグなどの犬種では、飼い主が「確認が難しい」と答える割合が高かった。小型犬は歯周病のリスクが高い犬種が多いにもかかわらず、そのリスクが確認しにくい状況にある、という二重の問題があることになります。
歯の確認が難しいということは、状態の変化に気づきにくいということでもあります。歯ぐきの赤み、歯の色の変化、動揺している歯——こうしたサインを見逃しやすい状況が、飼い主の多くに存在しています。
13.1%の犬が、これまでに歯のクリーニングのために麻酔をかけたことがあると報告されています。また、7.7%の犬が歯ぐきの問題または歯の脱落を経験していたと答えています。口臭がある、歯石がある、という飼い主が多数いる中で、プロフェッショナルケアを受けた犬の割合は13%にとどまっていた——この論文はそれを「見えているのはほんの一部にすぎない」と表現しています。
また、心臓病・腎臓病・肝臓病を持つ犬は、歯の状態を悪く評価される傾向もこの調査で確認されています。歯周病と全身疾患の関係は人間の研究でも指摘されており、犬でも同様のつながりが示唆されています。ただし、どちらが先に起きているかという因果関係はまだ明確ではなく、論文でも「関連はある」という慎重な表現が取られています。
知っているより、見ていること
80.2%の飼い主が「犬の歯の健康はとても重要だ」と答えています。関心は確かに高い。でも、定期的に口の中を確認していたり、歯科検診を受けさせていたりしている飼い主の割合は、その関心の高さとは一致していないかもしれない。
この論文が最終的に示唆しているのは、「飼い主は歯の問題を完全に無視しているわけではなく、でも気づけないことが多い」ということです。犬は痛みを隠す動物で、歯が悪くても食欲が落ちない場合もある。口臭は慣れてしまう。歯石は素人には判断が難しい。だから「大丈夫」という評価が先に来てしまう。
今日できることはシンプルで、小さなことです。口の周りを触ることから始め、唇をそっとめくって歯を見ること。嫌がるなら、それ自体が「慣らすところから始める必要がある」というサインです。毎日のケアが理想ですが、まず「見ること」を習慣にするだけで、変化に気づける機会は生まれます。獣医師に定期的に口の中を診てもらうことも、飼い主には見えない部分を確認するための有効な手段です。この調査が言う「氷山の一角」の外側に、何があるかを知ることができる場所です。
うちの子の口の中を、最後に見たのはいつだったか。少し思い出せるなら、今日がその次の機会かもしれません。